クリニックで栄養指導を行うメリットはある?AI活用で手間を省く方法とは

クリニックで栄養指導を行うメリットはある?AI活用で手間を省く方法とは

案内する栄養士

「生活習慣病の患者が多いけど、食事指導まで手が回らない…」

「薬をこれ以上増やしたくないという患者の声にどう答えればいいか…」

生活習慣病の患者への栄養指導の大切さを理解しつつも、人員や採算性の懸念から導入に踏み切れないケースは多いでしょう。管理栄養士が行う栄養指導は、薬以外の治療の選択肢となり、患者からの信頼感が高まる効果があります。

本記事では、クリニックで栄養指導を行うメリットについて、現状から具体的な効果まで解説します。導入後のスムーズな運用につながるAIを活用した記録や情報共有の方法も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

クリニックにおける栄養指導の現状

デスクワークをする栄養士

病院においては常勤の管理栄養士が栄養指導を行うことが一般的ですが、クリニックでの実施は少ない傾向にあります。関連データからクリニックにおける栄養指導の現状について解説します。

患者のニーズはあるが管理栄養士の配置は少ない

クリニックでは、栄養指導の対象となる生活習慣病患者が多いものの、管理栄養士の配置が少ない現状があります。

糖尿病や高血圧などの生活習慣病で外来通院する患者の79.0%がクリニックで治療を受けています。一方で、クリニックでの管理栄養士の配置人数(常勤換算)は0.04人です。病院の2.7人に比べるとはるかに少ないといえるでしょう。

さらに、クリニックの医師一人が担当する生活習慣病患者数は、病院医師の6倍というデータもあります。そのため、クリニックでは医師が患者に丁寧な栄養指導を行うことが難しい現状といえます。

参考:生活習慣病患者への栄養指導実施可能性から見た、一般診療所における管理栄養士配置状況の現状と課題│新潟人間生活学会

収益性や法的義務の面から配置されにくい

患者ニーズと管理栄養士の配置にギャップが生じるのは、収益性や法的義務が関係しています。

栄養指導の診療報酬は、管理栄養士の人件費をまかなえないと認識されがちです。また、医療法での管理栄養士の必置義務は100床以上の病院のみであり、クリニックには設置の必要がありません。

「収益が見込めない」という認識や設置の法的義務がないことから、管理栄養士の配置が進まない現状があります。

参考:医療法施行規則 | e-Gov 法令検索

クリニックで栄養指導を行う3つのメリット

栄養メニュー

収益性や法的義務の観点からは、栄養指導の重要性は高くないと認識されがちですが、栄養指導を行うメリットはあるのでしょうか。主な3つのメリットについて解説します。

  • 【満足度向上】新たな治療の選択肢を提供
  • 【集患】他院との差別化
  • 【将来的な対応】チーム医療体制が求められる流れに対応

1. 【満足度向上】新たな治療の選択肢を提供

薬以外での治療を希望する患者にとって、栄養指導という新たな選択肢を提供できます。「薬に頼らず生活したい」という患者の希望に添った治療が可能になるでしょう。また、管理栄養士が継続的に関わることで、患者とクリニックの関係が深まります。

クリニックへの患者満足度が向上し、治療の継続率を高めるなど、長期的な関係構築につながります。

2. 【集患】他院との差別化

管理栄養士の配置が少ないクリニックの現状を踏まえると、栄養指導ができることは他院との差別化につながります。「薬だけでなく食事の相談もできる」という強みは、クリニック選びの判断材料にもなるでしょう。

また、専門的な栄養指導が可能なクリニックとして地域に認知されれば、他の医療機関からの紹介を受ける可能性も高まります。新患獲得につながり、安定した集患効果が見込まれます。

3. 【将来的な対応】チーム医療体制が求められる流れに対応

近年の診療報酬改定は、多職種連携によるチーム医療の推進が背景にあります。管理栄養士もチーム医療の一員として体制を整備することは、将来的にもメリットがあるでしょう。

20204年度の診療報酬改定では、糖尿病や脂質異常症など生活習慣病の患者は、「特定疾患療養管理料」の算定対象から外れました。そして、生活習慣に関する管理を要する患者は「生活習慣病管理料」の算定に切り替える必要が生じました。

生活習慣病管理料の算定においては、「当該治療計画に基づく総合的な治療管理は、歯科医師、薬剤師、看護師、 管理栄養士等の多職種と連携して実施することが望ましい」とされています。

以上のような改定の流れは、管理栄養士も含めたチーム医療体制の構築が重視されているためでしょう。栄養指導を行うことは、こうした医療対応の流れに沿った動きだといえます。

出典:個別改定項目について│厚生労働省

【採算性シミュレーション付】導入方法の比較

データを示す栄養士

栄養指導の導入で気になるのは、やはり採算性でしょう。「直接雇用」と「外部委託」の2つの方法について、具体的なシミュレーションを交えて比較検討します。

1.直接雇用の場合

パートタイムなどで管理栄養士を直接雇用する方法です。生活習慣病患者が多く、栄養指導の実施で差別化したいと考えるクリニックに適しています。週2日程度の勤務でパート雇用し、外来栄養食事指導料1を算定した場合のシミュレーションは以下のとおりです。

【管理栄養士(パート)のシミュレーション】

週あたりの指導件数

月間想定売上 (円)

月間人件費 (円)

月間純利益 (円)

4件/週

36,800

36,000

+800

8件/週

73,600

36,000

+37,600

12件/週

110,400

52,800

+57,600

13件/週

119,600

52,800

+66,800

【シミュレーションの条件】

  • 想定売上:初回260点、2回目以降200点(外来栄養指導料I)の平均を230点(2,300円)として計算。
  • 人件費:管理栄養士の時給を1,400円、交通費を1勤務あたり1,000円と仮定。週8件までは週2日・各2.5時間勤務、週10件以上は週2日・各4時間勤務と想定。

以上のように、週あたり約4件(月52件)の指導で損益分岐点に達し、それ以降は黒字となります。 1日あたり3〜5件の指導を行えば十分に達成可能な数字であり、採算性は決して低くないことがわかります。

2. 外部委託の場合

外部委託は、地域の栄養ケア・ステーションや、オンラインサービス、フリーランスとの契約などがあります。

【委託形態ごとのシミュレーション】

委託形態

1セッションあたり売上 (円)

1セッションあたり費用 (円)

1セッションあたり純利益 (円)

栄養ケア・ステーション(外来・対面)

1,900

1,800

100

オンラインサービス

1,700

1,300

400

フリーランス

1,900

750

1,150

【シミュレーションの条件】

  • 売上2回目以降の指導料2である190点(対面)、170点(オンライン)を基準に算出。
  • 費用各サービスの料金例や時給相場を参考に算出。

分析すると、フリーランス契約が最も利益率が高いものの、採用や管理の手間がかかります。 利益と利便性のバランスがよいのはオンラインサービスといえるでしょう。低リスクな外部委託から始め、需要を見極めてから直接雇用に切り替えるという方法も可能です。

クリニックでの栄養指導を導入する際の注意点

案内する栄養士

患者のニーズを満たし、他院との差別化につながる栄養指導は、導入にあたっていくつか注意点があります。導入後の運用を安定させるポイントは、医師からの引き継ぎとカルテ記録の精度向上の2つです。

1. 医師からの引き継ぎを確実に行う

患者が栄養指導を受ける動機づけは、医師がどのように説明するかで変わります。「栄養指導は食事制限をするイメージがあるので嫌だ」と感じる患者も少なくありません。

単に「栄養指導を受けてください」と伝えるのではなく、栄養指導で何をするのか、どのような効果があるのかを伝えましょう。具体的には以下のポイントが大切です。

  • 食事内容や食事量、食材の選び方などについて管理栄養士が個別指導を行うこと
  • 「○○を食べてはダメ」という禁止ではなく、「もっとよい方法を見つけましょう」という協働型の指導であること
  • 患者一人ひとりの生活環境に合わせた指導を行うこと

栄養指導について、詳しく知らない患者も納得して導入できるよう、内容や目的を正しく説明しましょう。

2. 「陳腐」と指摘されないようにカルテ記録の精度を高める

チーム医療において、情報共有の基盤となるのがカルテ記録です。しかし、過去には厚生労働省の担当官から「他職種から見て、管理栄養士のカルテ記録が陳腐である」という厳しい指摘がなされたこともあります。

カルテ記録の質が低いと、管理栄養士の専門的なアセスメントや計画が他職種に伝わらず、チーム医療としての機能を果たせません。患者が話した内容を記録するだけでなく、病態や治療の全体像から必要な情報を得ることで、カルテ記録の質は向上します。

必要な情報を得るための想像力やコミュニケーション力が高い管理栄養士を採用、教育することが重要といえるでしょう。

参考:【講演レポート #08】カルテ記録に必要な管理栄養士ならではの気づき│公益社団法人日本栄養士会

栄養指導の実施を効率化するAI音声入力システムとは

スマホに音声入力をする人

質の高い栄養指導のためには、管理栄養士のコミュニケーション向上と、医師とスタッフ間の情報共有が欠かせません。患者の病態の全体像を理解することで、栄養指導での質問や介入の質が向上し、患者にとって真に必要な指導につながります。

しかし、忙しい臨床業務の中で丁寧な対応が難しいケースも少なくありません。栄養指導の質向上や効率化をサポートするのがAI音声入力システムです。

AI音声入力は、患者とのやりとりを録音して自動的にSOAP形式で要約できるシステムです。記録を書く作業から解放されるとともに、専門的に重要とされる情報を抽出した記録の生成が可能です。カルテを事後入力する際の精度低下を防げるでしょう。

また、録音した内容はクラウド上に保存され、スタッフに共有できます。栄養指導を受ける患者の診察時のやりとりが確認できるため、栄養指導に対するニーズや病状、生活習慣の正しい理解が可能です。栄養指導の内容も自動で録音されるため、医師との共有もしやすいでしょう。

MEDISMA AIクラークで栄養指導の質向上と効率化を実現

笑顔の医療スタッフ

クリニックにおける栄養指導は進んでいない状況にあるものの、他院との差別化になりうる取り組みです。診療報酬の面からも、チーム医療を推進する方法の一つとして、今後も評価が高まっていくことが期待されます。

一方で、栄養指導の導入には、患者への動機づけやカルテ記録の向上に注意する必要があります。そのためには、医師とスタッフ間での情報共有が欠かせません。情報共有を密に、効率的に行うにはAI音声入力システムの活用がおすすめです。

株式会社HERO innovationが提供する「MEDISMA AIクラーク」は、医療用語の自動変換にも対応したクリニック向けのAI音声入力システムです。スマホやタブレットでの入力も可能で、カルテがない環境下での栄養指導にも対応しています。栄養指導の導入や効率化を考えている方は、お気軽にお問い合わせください。

著者PROFILE

スマートクリニック事業推進室長 原拓也
スマートクリニック事業推進室長 原拓也
医療機器メーカー営業としてキャリアをスタートした後、医療ITベンチャーにて生活習慣病向けPHRサービスのプロダクトマーケティング責任者をはじめ、メルプWEB問診の事業責任者を経験。その後、クリニック専用の自動精算機・自動釣銭機の商品の企画・開発を手がけ、現在は「医療を便利にわかりやすく」をミッションにスマートクリニックの社会実装に向け同事業の企画・推進を担当。