クリニックの院内感染対策とは?マニュアル策定や効率化の方法を解説

クリニックの院内感染対策とは?マニュアル策定や効率化の方法を解説

消毒液を感染防止アクリルボードごしに患者に渡すクリニックの受付スタッフ

クリニックの感染対策は、患者に安全な医療を提供する上で不可欠です。新型コロナウイルス感染症の流行以後からより重要視され、5類感染症への移行後も依然として患者の意識は高いといえます。

感染対策はクリニック全体で意識することで実効性が高まります。そのためには、マニュアルの策定や体制構築が欠かせません。

本記事では、クリニックが実施すべき感染対策の基本やマニュアルに必要な内容を解説します。感染対策で生じがちな課題を解決する方法も紹介しますので、患者に安心感を与えつつ、集患にもつながる方法として参考にしてみてください。

クリニックの院内感染対策では何をすべき?

クリニックの院内感染対策は、体制整備から環境整備、ルール作りの3ステップで進めます。具体的には、以下の3つのステップです。

  • 感染防止の環境整備
  • 役割分担や研修など院内体制の構築
  • 感染対策マニュアル(指針)の策定

1.感染防止の環境整備

感染経路を遮断するために環境整備を進めます。具体的には、以下のように「ゾーニング(区域分け)」、「空気管理(換気)」、「清掃・物品管理」の3側面が重要です。

対策

具体的な対策例

ゾーニング(区域分け)

・受付にパーティションやビニールカーテンを設置する。

・待合室の椅子を間引き、患者間の距離を確保する。

・発熱患者と一般患者の動線を矢印などで明示し、分離する。

・可能であれば専用の診察室を設けるか、車中待機を案内する。

空気管理(換気)

・在室人員当たり30m3/hの換気量を確保する(CO2濃度1000ppm以下が目安)。

・換気量が不足する場合は、窓開けやHEPAフィルター付き空気清浄機を設置する。

・サーキュレーターで室内の空気を循環させ、よどみをなくす。

清掃・物品管理

・ドアノブ、手すりなど高頻度接触部位を1日1回以上消毒する。

・待合室の雑誌やおもちゃなど共用物品を撤去する。

・聴診器や血圧計など共用する医療器具は、患者ごとに消毒

・可能な限り単回使用(使い捨て)の器具を使用する。

 

こうした環境整備を着実に実行するためには、院内体制の構築やマニュアルの策定が重要となります。

参考:商業施設等の管理権原者の皆さまへ ~「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法│厚生労働省

2.役割分担や研修など院内体制の構築

マニュアルを運用する体制を整え、研修を定期的に実施します。院長を管理者としつつ、スタッフの中から「感染対策リーダー」を任命するなど役割を明確にしましょう。

研修テーマには「手指衛生の5つのタイミング」「PPEの正しい着脱訓練」などを設定し、全スタッフの知識を標準化します。「外来感染対策向上加算」の要件として、年2回以上の職員研修が必要です。

参考:疑義解釈資料の送付について(その4)│厚生労働省

3.感染対策マニュアル(指針)の策定

体制と環境が整ったら、院内感染対策の基盤となるマニュアル(指針)を文書化します。マニュアルは、全ての職員が共通認識を持って対策を実行するために不可欠です。

感染対策マニュアルには、「平時からの感染対策の徹底」や「感染症発生時の迅速な報告・対応フロー」といった基本方針を定めます。具体的な記載内容は次章で詳しく解説します。

クリニックの院内感染対策マニュアルに必須の3要素

院内感染対策マニュアルには、医学的根拠にもとづいた具体的な予防策を盛り込みます。特に重要な以下の3つの要素について解説します。

  • 標準予防策(手指衛生・PPE)の実行
  • 感染経路別予防策と環境整備(換気・清掃)
  • 患者動線の分離(ゾーニング)

1.標準予防策(手指衛生・PPE)の実行

標準予防策(スタンダードプリコーション)は、全ての患者の血液や体液は感染性があるものとして扱う考え方です。

手指衛生は、患者に触れる前後や処置の前後など、実施すべきタイミングを明確にします。PPE(Personal Protective Equipment:個人防護具)は汚染された表面に触れずに外す手順(例:手袋→ガウン→マスク)が重要です。

標準予防策の手順を院内に掲示し、周知徹底を図ります。

参考:「1.標準予防策と経路別予防策」│厚生労働省(薬剤師の資質向上等に資する研修事業)

2.感染経路別予防策と環境整備(換気・清掃)

標準予防策に加え、感染経路(飛沫・接触・空気)に応じた対策も定めます。標準予防策だけでは防ぎきれない、インフルエンザ(飛沫)や結核(空気)など特定の感染症に対応するためです。

飛沫・接触対策としてのサージカルマスク着用や距離確保、適切な換気方法(例:2方向の窓を開ける)を具体的に記載します。

参考:② –1 標準予防策と経路別予防策│厚生労働省

3.患者動線の分離(ゾーニング)

感染疑い患者と一般患者の動線をわける(ゾーニング)ことは、院内感染防止の要です。感染疑い患者の分離は、来院前や受付時点でのトリアージ(振りわけ)にもとづいて行います。具体的な分離方法は以下の通りです。

  • 物理的分離:専用の入口や診察室を設ける
  • 時間的分離:発熱外来の診察枠を設ける
  • 空間的分離:駐車場での車中待機・診察を行う

3つの分離方法の中から、自院で実行できそうなものを選択し、分離を行うことが求められます。プレハブを設置したり、空き部屋を診察室として活用したりする物理的分離が難しい場合は、感染疑いの患者を異なる時間枠で診察する時間的分離を行います。

参考:診療所における効果的な感染対策の好事例の紹介│厚生労働省

クリニックの感染対策で生じがちな課題

マニュアルに沿った理想的な対策を実践しようとすると、限られたリソースの中で多くの課題が生じます。特にスタッフの業務負担や、加算要件の管理が問題になりがちです。具体的に、以下の3つの課題について解説します。

  • 患者の分離が大変でスタッフが疲弊する
  • 院内滞在時間が「密」と不安を招く
  • 「加算要件」がもたらす事務負担

実際の感染対策で困らないよう、理解しておきましょう。

1.患者の分離が大変でスタッフが疲弊する

発熱患者の動線分離には、事前のトリアージが不可欠です。しかし、受付や電話での問診は時間がかかり、スタッフの業務を圧迫します。特に流行期には電話対応が増え、スタッフの疲弊につながります。

また、スタッフの感染対応の長期化は心理的な負担も大きく、定期的な面談機会を設けるなどのメンタルヘルスケアも必要です。

2.院内滞在時間が「密」と不安を招く

換気や椅子の間隔確保といった物理的対策を行っても、アナログな受付や会計処理では待ち時間が発生しがちです。院内滞在時間が長引けば、待合室の混雑は避けられません。

そのため、患者の不安を招き、「密」な環境への懸念から受診控えにつながる可能性もあります。

3.「加算要件」がもたらす事務負担

感染対策の体制を評価する診療報酬として「外来感染対策向上加算」があります。加算要件として、地域の医療機関が実施するカンファレンスや研修に年2回以上の参加が必要です。具体的には、研修記録(実施日時、参加者名簿、研修内容)の保管が求められます。

さらに、感染対策に関する医療機関の連携体制にかかる「連携強化加算」の算定にも、連携医療機関への感染症発生状況の定期的な報告が必要です。

研修記録や発症状況の集計などは、診療時間外に行うことも多く、スタッフの負担になりがちです。

参考:令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項Ⅰ(感染症対策)│厚生労働省

クリニックの院内感染対策には「IT化」で対応を

スタッフの負担を増やさずに感染対策の質を維持・向上させるには、ITシステムの活用が有効です。もちろん、消毒剤やPPEの配置を見直して動線を最適化するなど、IT化以外の業務改善も重要です。その上で、アナログな業務を自動化し、感染対策を進める上での課題に対応する方法を紹介します。

  • 診療予約システムで待合室の「密」を解消
  • 事前Web問診でトリアージを完了
  • ITツールで加算要件(研修・報告)の負担を軽減

1.診療予約システムで待合室の「密」を解消

診療予約システムは、患者がシステム上で予約の取得や変更、キャンセルなどの管理ができるものです。クリニック側でも、時間帯予約や診察枠設定など、豊富な予約管理機能を活用できます。

システム上で「一般外来枠」と「発熱外来枠」を別々に設定・管理できる機能により、「時間的分離」を自動化できます。

また、時間帯ごとの予約枠を設けることで来院時間が分散され、待合室の混雑解消が期待できます。

2.事前Web問診でトリアージを完了

Web問診とは、患者が来院する前にスマートフォンやパソコンから問診に回答できるシステムです。

来院前に症状が把握できるため、感染疑いの患者を事前に振りわけられます。例えば、「37.5度以上の発熱」「咳・咽頭痛」「周囲の感染状況」といった質問への回答にもとづき、自動でトリアージが完了します。

電話や受付での聞き取り業務が削減され、感染疑い患者をスムーズに適切な動線へ案内できます。

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【診療科別】事前問診を導入する効果は?Web問診のメリットを解説

3.Web問診データを加算要件の事務処理に活用

Web問診システムは、「外来感染対策向上加算・連携強化加算」の要件である「連携先への報告」を効率化します。

多くのWeb問診システムには、蓄積された回答データを集計・分析する機能が備わっています。例えば、管理画面上で「発熱あり」「咳あり」といった特定の回答項目を選び、期間を指定して該当する患者数を自動でカウントできます。さらに、結果をCSVファイルとして出力できるため、連携先に提出する報告書作成の手間を削減できます。

【注意点】導入コストやITツールが苦手な患者への配慮も必要

Web問診などのITツールは業務効率化に有効ですが、導入には初期費用や月額コストが発生します。

また、高齢者などスマートフォンの操作が苦手な患者層が多い場合、かえって受付業務が煩雑になる可能性も否定できません。電話予約枠や紙の問診票を併用するなど、クリニックの患者層に合わせた慎重な検討が必要です。

クリニックの院内感染対策を長く続けるためには「効率化」も必要

メルプWEB問診の画面イメージ

クリニックの院内感染対策は、患者とスタッフを守るために不可欠ですが、限られた人員やスペースで実行し続けるのは簡単ではありません。アナログな運用でスタッフの負担を増やすのではなく、IT化によって「業務効率化」と「患者の安心感」を両立させることが可能です。

感染対策の効率化でお悩みの場合、WEB問診システム「メルプ」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。現役医師が開発した問診システムで、項目を柔軟にカスタマイズ可能。来院前に必要な症状を把握し、トリアージを自動化できます。ご相談は無料で承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

メルプWEB問診

 

著者PROFILE

スマートクリニック事業推進室長 原拓也
スマートクリニック事業推進室長 原拓也
医療機器メーカー営業としてキャリアをスタートした後、医療ITベンチャーにて生活習慣病向けPHRサービスのプロダクトマーケティング責任者をはじめ、メルプWEB問診の事業責任者を経験。その後、クリニック専用の自動精算機・自動釣銭機の商品の企画・開発を手がけ、現在は「医療を便利にわかりやすく」をミッションにスマートクリニックの社会実装に向け同事業の企画・推進を担当。